生活保護法63条が適用される場面は…
前回の記事で,
- 生活保護費の返還については,「不正受給の場合」に適用される生活保護法78条と,「それ以外の場合」に適用される生活保護法63条という2つのルールが存在すること
- 法文上,「不正受給の場合」に適用される生活保護法78条については全額返還とされているが,「それ以外の場合」に適用される生活保護法63条については全額返還とはされていないこと
を解説しました。
では,生活保護法63条が適用される場合,返還金額はどのように決定すべきでしょうか。
この問題を考えるにあたっては,生活保護法63条がどんな場面に適用されるルールであるのかを整理する必要があります。
生活保護法63条本来の適用場面
生活保護法63条が適用されるのは,
『被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき』
です。
『本来,資力はあるが,これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある場合にとりあえず保護を行い,資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図ろうとするもの』
であるとされています(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-5)。
例えば,ある世帯が,大規模災害によって急迫状態に陥り,生活保護の受給を開始したが,その後しばらくして,災害による補償金を受け取った,という場合を考えてみましょう。
この場合,厚生労働省の解説によれば,生活保護の開始時点から(補償金という)資力があったものとして取り扱われます(『生活保護手帳別冊問答集2017』問13-6)。
したがって,生活保護の受給開始から補償金の受け取りまでに支給された保護費(上記の図の「保護費支給①~④」)は,『被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき』に該当しますので,生活保護法63条による返還の対象となります。
「生活保護法63条本来型」の特徴
このような「生活保護法63条本来型」の特徴として,以下の3点を挙げることができます。
現実化していない資力が存在すること
まず,資力の発生時期と,資力が現実化する時期に時間的な隔たりがあり,「資力があるが現実化していない」期間が存在します。
保護費の支給決定に過誤がないこと
次に,「資力があるが現実化していない」期間に保護費が支給されることになりますが,支給される保護費(上記の図の「保護費支給①~④」)の支給決定に過誤(間違い)はありません。
現実化していない資力は保護費から差し引かれるべきものではなく,これを差し引かずに保護費を支給していることは間違いではないからです。
現実化した資力から保護費の返還が可能であること
そして,資力が一括して現実化した後に,その現実化した資力(上記の図の「補償金受領」)から,返還の対象となる保護費を返還することが可能です。
「生活保護法63条本来型」の返還額はどのように決められるべきか。
「生活保護法63条本来型」の場合には,資力が一括して現実化した後に,その現実化した資力(上記の図の「補償金受領」)から,返還の対象となる保護費を返還することが可能です。
したがって,「原則として,資力を上限として支給した保護金品の全額を返還額」としつつ,「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められる場合に,一定の費目について自立更生免除を認める」取扱いとしても,当該世帯の最低生活を脅かすような自体は生じにくいといえます。
ただ,そうはいっても,保護費返還決定までに現実化した資力が費消されてしまっているような場合には,当該世帯の最低生活に配慮した上で返還金額を決める必要があるでしょう。