控訴審での審理
「生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)の控訴審ですが,2018年2月8日に2回目の口頭弁論期日が開かれ,審理が終結されました。
控訴審で新たに判明した事実
この控訴審の審理の中で,新たに明らかになった事実があります。
東村山市で発生した生活保護費の過大支給(7年間で70件,計4704万8652円)との関係
今回の裁判は,東村山市が控訴人(原告)に対し,収入の未申告により生活保護費の過支給が生じたとして保護費約73万円の返還を命じる決定をしたことから,控訴人(原告)が,この決定の取消しを求めて争っているものです。
ところで,以前の記事でも書きましたが,東村山市では,平成18年度から平成24年度にかけて,生活保護費の過大支給(7年間で70件,計4704万8652円)が起き,関係した職員に対する懲戒処分等が行われています(http://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisei/koho/press-release/kouho2013press.files/20131111choukai.pdf)。
そして,今回,東村山市が控訴人(原告)に対して返還決定をした生活保護費約73万円は,上記の過大支給(7年間で70件,計4704万8652円)のうちの1件であることが分かりました。
(加えて,このことを裏付ける資料には,東村山市側の未処理内容として「収入認定未変更」と記載されていることも判明しました。)
東京都福祉保健局保護課による特別指導検査での指摘事項
また,上記の生活保護費の過大支給の発覚後,平成25年8月27日から同月29日にかけて,東京都福祉保健局保護課による特別指導検査が行われ,その結果として,東村山市に対して以下の指摘がなされています。
- ケースワーカーが標準数の29名に対して10名不足しており,担当世帯数が120世帯を超え,事務負担が重くなっていたことが,事務処理の遅れ,基本的な業務の漏れ,事務懈怠発生の一因と考えられること。
- 長期間にわたって収入申告書の徴取がなされていないものが多数存在すること。
- 長期間にわたって家庭訪問がなされていないもの,ケース記録の記載のないものが散見されたこと。
担当ケースワーカーの不可解な対応の背景にあったもの
控訴人(原告)に対して保護費の過支給がなされた経緯について解説した以前の記事の中で,控訴人(原告)の担当ケースワーカーの対応に,
- 控訴人(原告)に収入申告を促した記録がないこと
- 平成24年5月を最後に,平成25年4月までケース記録の記載が一切ないこと
- 担当ケースワーカーが家庭訪問をした記録がないこと
- 収入認定額について,平成24年5月分として認定された金額が1年以上もそのまま認定され続けていること
といった不可解な点があることを指摘しましたが,今回,その理由や背景事情も明らかになりました。
控訴審判決について
控訴審判決は,2018年4月に言い渡される予定です。