私が担当している裁判(生活保護法第63条の規定に基づく費用返還請求処分取消請求事件)で,目を疑うような内容の判決が言い渡されました。
原告の訴え
原告であるAさんは,生活保護を受給していましたが,手違いにより,1年間で生活保護費が70万円ほど多く払われていました。
Aさんは,そのことに気づかず,70万円のうち6万円でパソコンを買い,就職活動などに使っていました。
その後,Aさんは役所から保護費70万円を全額返せと言われたので,パソコンの購入費用6万円については,今後自立するために必要なやむを得ない支出なので,返還額から免除して欲しい,と裁判所に訴えました。
裁判所の判断
この原告の訴えに対し,東京地方裁判所民事第2部(林俊之,梶浦義嗣,高橋心平裁判官)は以下のとおり判断しました。
『原告は,本件パソコン等は,求職活動や,〇〇会社で就労していた際の派遣元である××会社では,給与明細をパソコン等で印刷しなければならず,原告が収入申告を行うためには,必要不可欠であった旨を主張する。
しかし,原告が主張する上記用途であれば,パソコン等を一時的に知人等から借りるなどして賄うことができ,本件パソコン等は自立更生のために不可欠とはいえず,その他自立更生のために不可欠といえる用途があることはうかがわれない。したがって,本件パソコン等代金を自立更生免除の対象としなかった処分行政庁の判断が不合理とはいえない。』
…裁判官というのは,日常的にパソコンの貸し借りをするんでしょうか(少なくとも私はパソコンの貸し借りなんてしません。)。
就職活動に必要なパソコンを知人から借りて賄うというのは,求人への応募,それ対する会社からの返答,それに対する対応…といったやり取りをすべて知人からパソコンを借りてやる,ということでしょうか。
そもそも,パソコンを貸してくれる知人等がいない世帯の場合にはどうするんでしょうか。
あまりに酷い判示に開いた口が塞がりませんが,本件は控訴していますので,高裁で正しい判断がなされることを期待したいと思います。
裁判の内容についての補足
なお,この裁判については,以下の5つの記事で補足していますので,あわせてご覧ください。