考え方の異なる東京地裁の2判決
東京地方裁判所平成29年9月21日判決
前回の記事で,『過支給が生じた経緯が何であろうと,返還能力が無かろうと,そのことは返還金額には関係がなく,全額を返還させるのが原則なのだ。』というのが今回の判決(東京地判平成29年9月21日)の考え方であることをご紹介しました。
実際に,今回の判決は,生活保護法63条と返還能力の関係について,以下のとおり判示しています。
『原告は,本件処分時には,現実の資産としては,現金はほとんど有しておらず, 預貯金を10万円程度有していたにすぎないことから , 本件返還金額の全額を返還する資力を有していなかった旨を主張するが,…生活保護費が過払いとなったにもかかわらず, 被保護者がこれを費消したために生活保護法63条による返還の対象とならないものとすると,本来受給することができなかった金員を受給することを認めることとなり,不合理であることは明らかである。』
東京地方裁判所平成29年2月1日判決
ところが,今回の判決が『不合理であることは明らかである』とする取扱いを,東京地裁の別の判決(東京地判平成29年2月1日)は正面から認めています。
『法63条に該当する被保護者について,その資産や収入の状況,その受けた保護金品の使用の状況,その生活実態,当該地域の実情等の諸事情に照らし,返還金の返還をさせないことが相当であると保護の実施機関が判断する場合には,当該被保護者に返還金の返還をさせないことができるものと解される。』
行政における異なる2つの取扱い
返還決定を取り消す自治体
そして,行政においても,
・過払いとなった生活保護費の返還決定が県の裁決で取り消された例
(『過払い返還取り消し 県裁決 大津市福祉事務所に /滋賀』)
・過払いとなった生活保護費の返還請求を自主的に取りやめた例
(東日新聞『受給者に返還求めず市長の減給や職員の処分も/生活保護費の過支給で豊橋市』)
といった取扱いがみられるようになっています。
東村山市での取扱い
生活保護費の過支給とは,なにも不正受給の場合に限って起きるものではなく,様々な場面で様々な理由で起こりえます。
実際に,今回の裁判の被告である東村山市においても,平成18年度から平成24年度にかけて,職員の不適正な事務処理により,70件の過大支給(計4704万8652円)が起き,関係職員に対する懲戒処分等が行われています。
http://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/shisei/koho/press-release/kouho2013press.files/20131111choukai.pdf
そして,この過大支給分の取扱いについては,東村山市議会において,福祉事務所長から,
『あくまで過払い、すなわち支払ってはいけないものを支払っている状況でございますので、私どもといたしましては粘り強く返還を求めていきたいと考えております。』
と述べられています。
(平成25年東村山市議会6月定例会東村山市議会会議録第10号)
さて,この記事を読まれた皆さんは,この中のうち,どの取扱いが『合理的』で,どの取扱いが『不合理』と思われるでしょうか。