弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

生活保護法63条と78条の違い(受け取りすぎた生活保護費は全額返還?・その1)

受け取りすぎた生活保護費を全額返還させるのは当然?

生活保護受給世帯の就職活動にパソコンが必要なら,知人等から借りて賄えばいい。」という判決(東京地判平成29年9月21日)について、

というご意見も少なからず頂戴しました。

さて,このツイートのように「受け取りすぎた生活保護費を全額返還させるのは当然だ。」と本当に言えるのでしょうか。

生活保護費の返還に関する2つのルール

この問題を考えるためには,生活保護法の仕組みについていくつか理解しなければならないことがあります。
そのうちの1つが,受け取りすぎた生活保護費の返還に関する2つのルール(生活保護法63条と78条)の違いです。

生活保護法78条

『不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。』

この規定は,いわゆる「不正受給」(不実の申請その他不正な手段により保護を受けたとき)の生活保護費返還のルールを定めています。

この規定の「その費用の額の全部又は一部を,その者から徴収する」というのは,

  • 受け取った生活保護費の全部が不正受給の場合は,その全額を,
  • 受け取った生活保護費の一部が不正受給の場合には,その一部について全額を

返還させるという意味だとされていますので,まさに「全額返還」です。

生活保護法63条

『被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。』

この規定は,「不正受給」以外の場合(被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたとき)の生活保護費返還のルールを定めています。

この規定では,返還金額は「受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」とされており,法文上は「全額返還」とはされていません。

生活保護費の返還を求められたら

このように,受け取りすぎた生活保護費の返還については,生活保護法78条と63条という2つの異なるルールが定められていますので,生活保護費の返還を求められている方は,ご自身が生活保護法78条と63条のどちらによって返還を求められているのかをまずは確認する必要があります。