弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

質屋営業法第36条は,質屋への利息制限法の適用を否定するか(質屋と利息制限法・その4)

質屋営業法第36条は,質屋が行う金銭の貸付における利息について利息制限法の適用を否定するか

次に,②質屋営業法第36条は,質屋が行う金銭の貸付における利息について利息制限法の適用を否定するでしょうか。

質屋営業法第36条が制定された経緯

昭和29年当時の利息制限法が質屋に及ぼす影響

1つ前の記事のとおり,昭和29年当時の利息制限法は,制限利率について規定こそしていたものの,同法第1条2項により,制限を超過する利率について事実上放任することを明らかにしていましたので,利息制限法の適用により質屋が影響を受けることは(制限を超える利率による利息について裁判上の請求が認められないことを除いては)ありませんでした。

つまり,この当時,質屋について利息制限法の適用を否定する必要はそもそもなかったのです。

出資法の制定が質屋に及ぼす影響

ところが,昭和29年,利息制限法と同時期に制定された出資法は,日歩30銭を超える高利に対し罰則(3年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金またはこれらの併科)を設けることにしていました。

当時の質屋のうち98.4%は,従来からの商慣習として月暦による利息計算方法を採用していたところ,これを日歩に換算すると30銭を越える利率となる質屋が大部分であったため,出資法の規定がそのまま適用されれば,同法により処罰の対象とされることとなっていたのです。

そのため,出資法制定と同時に質屋営業法第36条が設けられ,出資法の規定を質屋に適用する際には,同法の規定を,月暦による利息計算方法を認める形に読み替えて適用することになったのです。

質屋営業法第36条の趣旨

質屋について,利息制限法の適用を排除する必要性はなかった

以上の立法経緯からすれば,質屋営業法第36条が,利息制限法の適用を排除する趣旨ではないことが明らかです。

そもそも,昭和29年当時の利息制限法によれば,質屋は,裁判上の請求こそ認められないものの,利息制限法の定める制限を超える利率で利息を収受することは自由に認められていたのですから,質契約の利息について,利息制限法の適用を排除する必要性はまったく存在しなかったのです。

質屋営業法第36条は,出資法の適用する際に歴月計算を認めるために設けられた

昭和29年の質屋営業法が改正され,同法第36条の規定が設けられたのは,刑罰法規である出資法を適用する際に,月暦による利息計算方法を認める形に読み替えるためでした。質屋営業法第36条の規定は,民事上の上限利率を定めた利息制限法とは無関係であり,それゆえ,同条は利息制限法の適用を排除するものではあり得ないのです。

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