弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

利息制限法第1条2項についての最高裁判決と,質屋に対する過払金返還請求の関係(質屋と利息制限法・その5)

質屋に対する利息制限法の適用と,同法第1条2項の関係

前回までの記事によれば,質屋の行う金銭の貸付における利息についても,利息制限法の適用が認められるということになります。
ただ,かつては,利息制限法第1条2項が存在していたため,債務者から債権者に対する制限超過利息の返還請求(過払金返還請求)は認められていませんでした。

利息制限法第1条2項についての最高裁判例の出現

ところが,以下で述べるとおり,昭和30年代から40年代にかけて,最高裁が利息制限法第1条2項についての解釈を変更したことにより,制限利率を超える利息について,債務者からの不当利得返還請求(過払金返還請求)が認められることとなったのです。

昭和39年11月18日最高裁大法廷判決

同判決は,

「債務者が、利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。」

と判示し,制限利率を超える利息について,まず,元本への充当を肯定しました。

昭和43年11月13日最高裁大法廷判決

同判決は,

「思うに、利息制限法一条、四条の各二項は、債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払つたときは、その超過部分の返還を請求することができない旨規定するが、この規定は、金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである。けだし、元本債権の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく、したがつて、利息・損害金の超過支払ということもあり得ないからである。この故に、消費貸借上の元本債権が既に弁済によつて消滅した場合には、もはや利息・損害金の超過支払ということはありえない。したがつて、債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となつたとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから、この場合には、右利息制限法の法条の適用はなく、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。」

と判示し,制限利率を超える利息について,不当利得返還請求を肯定するに至っています。

最高裁判決の射程は質屋にも及ぶ

これらの最高裁判決の判示するところが,質屋についてだけ及ばないとする理由は見出すことができません(なお,利息制限法1条2項は平成18年の法改正により削除されています)。
したがって,質屋について利息制限法の適用を認める私見からは,質屋についても,他の貸金業者と同様に,不当利得返還請求(過払金返還請求)が認められる,という結論になります。

質屋に対して過払金返還請求をするにあたっての注意点

もっとも,質屋は貸金業法上の「貸金業者」には当たらないため,取引履歴等を記載した帳簿の開示義務が認められていません。そのため,過払金の返還請求にあたっては,特に立証について,一般の貸金業者とは異なる検討が必要になります。
質屋に対する過払金返還請求をご検討の方は,是非一度ご相談ください。

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