弁護士 木村康之のブログ

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遺言が成立した日と異なる日付が記載された自筆証書遺言の効力(最一判令和3年1月18日)

 (自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

事案の概要

①平成27年4月13日 A(遺言者)が,入院先の病院において,本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書する。

②平成27年5月10日 退院後,Aが,弁護士立会の下,押印する。

③平成27年5月13日 Aが死亡。

判旨

『自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決・裁判集民事120号531頁参照),前記事実関係の下においては,本件遺言が成立した日は,押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり,本件遺言書には,同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず,これと相違する日付が記載されていることになる。
しかしながら,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。
したがって,Aが,入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。

遺言書の日付はどう記入すべきか

遺言書が成立した日付を記入すべき

上記の判旨で引用されている最三判昭和52年4月19日のとおり,自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければなりません。
したがって,
・遺言書の全文の自書
・氏名の自書
・押印
・日付
の全てが揃う日を記入すべきです。

日付がずれても,事情によっては救済される可能性もあるが…

今回の最高裁判例は,遺言が成立した日と異なる日付が記入された自筆証書遺言について,事実関係によっては有効とされる可能性を示したものといえますが,遺言書が有効か無効かについての無用な紛争を防ぐためにも,遺言が成立した日の日付を記入することを徹底すべきです。