遺言書としては無効であるとしても…
前回の記事のとおり,パソコンで作成された遺言書は,「遺言書としては無効」であると考えられますが,遺言書の内容が実現される余地がまったくないわけではありません。
遺言書としては無効であっても,以下に述べる「死因贈与」の契約書であると認められるような場合には,死因贈与契約が存在すると認められる可能性があります。
死因贈与契約について
民法は,贈与契約の一類型として,死因贈与契約を定めています(民法554条)。
民法554条は「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については,その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する」と定めていますが,この規定は,死因贈与契約の効力については遺贈(単独行為)に関する規定に従うべきことを規定しただけで,その契約の方式についても遺言の方式に関する規定に従うべきことを定めたものではないとされています(最判昭和32年5月21日)。
そのため,死因贈与契約は,契約一般の原則に従い,その方式は原則として自由であり,贈与者・受贈者間において一定の財産を無償譲渡する意思の合致があれば成立します。
死因贈与契約の成立を認めた裁判例
以下では,遺言書としては無効であるが,死因贈与の契約が成立していたと実際に認定した裁判例をご紹介します。
広島高判平成15年7月9日
「…死因贈与は,遺贈と同様に死亡が効力発生要件とされているため,遺贈に関する規定が準用されるが(民法554条),死因贈与の方式については遺贈に関する規定の準用はないものと解される(最判昭和32年5月21日民集11巻5号732頁参照)。したがって,遺言書が方式違背により遺言としては無効な場合でも,死因贈与の意思表示の趣旨を含むと認められるときは,無効行為の転換として死因贈与の意思表示があったものと認められ,相手方のこれに対する承諾の事実が認められるときは,死因贈与の成立が肯定されると解せられる。
これを本件についてみると,前記認定のとおり,亡Dは,死期が迫っていることを悟り,死後自己所有の財産を,敢えて養子である原審原告を除外して,実子である原審被告らに取得させようと考え,本件遺言書を作成したのであり,その目的は,専ら,死亡時に所有財産を原審被告らに取得させるという点にあったこと,遺言という形式によったのは,法的知識に乏しい亡Dが遺言による方法しか思い付かなかったからであり,その形式にこだわる理由はなかったこと,そのため結局遺言としては無効な書面を作成するに至ったこと,亡Dは,本件遺言書の作成当日,Fを介し,受贈者である原審被告らにその内容を開示していること等の点にかんがみれば,本件遺言書は死因贈与の意思表示を含むものと認めるのが相当である。
そして,前記認定のとおり,原審被告Bは,本件遺言書作成には立ち会ってはいなかったものの,その直後に亡Dの面前でその内容を読み聞かされ,これを了解して本件遺言書に署名をしたのであるから,このときに亡Dと原審被告Bとの間の死因贈与契約が成立したといえる。また,原審被告Cは,本件遺言書に署名することはなかったものの,本件遺言書作成日に,病院内で,Fから本件遺言書の内容の説明を受け,これに異議はない旨述べた上,亡Dを見舞い,その際にも本件遺言書の内容に異議を述べることもしなかったのであるから,亡Dに対し,贈与を受けることを少なくとも黙示に承諾したものというべきであり,このときに,亡Dと原審被告Cとの間の死因贈与契約が成立したといえる。
以上によれば,原審被告ら主張の平成11年1月17日付死因贈与契約の成立が認められる。」
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