弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

伝聞法則を理解するためのポイント~実践編2~

伝聞法則における「要証事実」の認定

伝聞法則について,一般に「供述証拠が伝聞証拠にあたるか否かは,要証事実との関係で相対的に定まる。」といわれます。
ところが,この理屈そのものは頭に入っていても,いざ要証事実を認定しようとすると「あれ?要証事実はどれ?」となってしまう受験生も多いのではないのでしょうか。

そこで,今回は,平成21年新司法試験・刑事系第2問を題材に,要証事実の認定を実践してみたいと思います。

「主要事実」は何か

公訴事実の確認

まず,公訴事実の確認ですが,検察官は,被告人甲が乙と共謀の上,Vを殺害してその死体を遺棄した旨の公訴事実で,甲を殺人罪及び死体遺棄罪により起訴しています。

被告人の認否

これに対して,甲は,第1回公判期日で「自分は,殺人,死体遺棄の犯人ではない。」と述べています。

争いのある「主要事実」は…

そうすると,この公判における争点となる主要事実は「(殺人と死体遺棄についての)甲の犯人性」ということになりそうです。

検察官の立証趣旨

この公判の中で,検察官は,「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という立証趣旨で,問題となる実況見分調書の証拠調べを請求しています。
これに対し,弁護人は,その立証趣旨が「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」であると考え,不同意の意見を述べています。

「要証事実」は何か

さて,この場面で,問題となる実況見分調書の要証事実をどのように認定すべきでしょうか。

「主要事実」を直接立証する証拠?

実況見分調書に記載された甲の指示説明や写真部分は,確かに,弁護人の主張するように「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」の立証にも使うことができそうです。

しかし,ここで着目すべきポイントは,

  • この公判における争点となる主要事実(=「(殺人と死体遺棄についての)甲の犯人性」)
  • 証拠調べを請求した検察官の立証趣旨(=「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」)
  • 証拠構造(=他に存在する証拠とその内容)

です。

「直接証拠型」における補助事実としての位置づけ

最初に確認したとおり,この公判における争点となる主要事実は「(殺人と死体遺棄についての)甲の犯人性」ですが,この主要事実については,直接証拠である甲の供述調書が存在しています。
そして,直接証拠である甲の供述調書との関係で,検察官の立証趣旨にある「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」は,甲の自白を裏付ける補助事実として位置づけることができます。

「間接事実型」における間接事実としての位置づけも可能

あるいは,「甲の犯人性」の立証に甲の自白を用いず,他の間接事実から立証していくとしても,「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」は,「甲の犯人性」との関係で,間接事実の1つとして位置づけることができるでしょう。甲が本件車両を海中に沈めることができないのであれば,甲は犯人ではないわけですから,「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という事実は,やはり「甲の犯人性」という争点との関係で意味を持ち得ます。

検察官の立証趣旨が意味を持っている場合には…

つまり,検察官の立証趣旨から導かれる要証事実は,この公判において補助事実(または間接事実)として意味を持っています。
刑事訴訟法は当事者主義を採用していますから,検察官の立証趣旨が無意味なものでない以上,裁判所は検察官の立証趣旨を尊重しなければなりません。
したがって,この問題では,最二決平成17年9月27日の事例とは異なり,(検察官の立証趣旨から離れて)実質的な要証事実を考慮する必要はなく,検察官の立証趣旨である「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」を要証事実と認定することになります。