弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

伝聞法則を理解するためのポイント

伝聞法則を検討する枠組み

刑事訴訟法の中で,伝聞法則に苦手意識がある受験生は多いと思いますが,思考の枠組みは至ってシンプルで,

①伝聞か非伝聞かを検討し(非伝聞ならそれで終わり),
②伝聞であれば,伝聞例外に該当するかを検討する

だけで終わりです。

「要証事実」とは…?

「要証事実」の二義性

ただ,①について「伝聞証拠か否かは要証事実との関係で…」と考え始めると,「あれ?要証事実はどれ?」と思う人が多いのではないかと思います。

伝聞法則における「要証事実」

ここでいう「要証事実」は,その証拠(伝聞か否かを検討している証拠)によって直接立証される事実のことを指します。

公判における最終的な立証命題としての「要証事実」

これに対して,公判における最終的な立証命題を「要証事実」と表現することもあって,これが混乱するポイントなのではないかと思います。
両者の関係が整理できると,伝聞法則についての理解はかなり深まるのではないでしょうか。

「要証事実」と「主要事実」

以下では,公判における最終的な立証命題たる要証事実を「主要事実」と呼んで説明します。

直接証拠型の立証構造と「要証事実」

「主要事実」を直接立証する証拠がある場合(そして,この事実とこの証拠の関係で伝聞か非伝聞かを検討している場合),「主要事実」と伝聞法則における「要証事実」とは一致していることになります。

間接事実型の立証構造と「要証事実」

これに対して,「主要事実」を間接事実から推認する場合,伝聞か非伝聞かを考える上で問題となる「要証事実」は,その証拠により立証する間接事実であって,「主要事実」ではありません。
つまり,「主要事実」を間接事実から推認する場合には,その「主要事実」と,伝聞か非伝聞かを検討する上での「要証事実」(=間接事実)が異なる,ということになります。

なお,伝聞証拠か否かを検討する前提として,「主要事実」を間接事実から推認する類型の場合に,「主要事実」との関係で間接事実(=「要証事実」)がどのように機能するかを把握することも重要です。
これが把握できないと「そもそもこの事実を立証して何の意味があるの?ホントにこれ要証事実なの??」となりがちなので,注意が必要です。

「要証事実」と「立証趣旨」

もう1つ,①に関連して混乱を招くのが「立証趣旨」という概念ではないかと思います。

「立証趣旨=要証事実」???

「立証趣旨=要証事実」という解説を目にすることもありますが,常にイコールの関係にあるとは限らないのでこれまた注意が必要です。
「要証事実」が何を指すかについては上で整理したとおりですが,これに対し「立証趣旨」とは,(当事者が明示する)「証拠と証明すべき事実との関係」(刑訴規則189条)をいいます。
ですから,当事者が「証拠と証明すべき事実(=主要事実)との関係」として「要証事実」そのものを明示しない限りは,両者は一致しません。
逆にいえば,当事者がそういう明示の仕方をすれば一致することになります。

「立証趣旨」と「要証事実」の関係は…

「立証趣旨」と「要証事実」の関係についてまとめると,多くの場合,前者は後者を把握するためのヒントという位置づけになりますが,たまにそのまま答えになっていることもある,ということになるのではないかと思います。

(伝聞法則を理解するためのポイント~実践編~はこちら。)