司法修習の給費制の廃止
今年から,司法修習の給費制が廃止され,貸与制に移行することに伴い,「もう生活保護を申請するしか・・・」という司法試験合格者の声や,「司法修習生は生活保護申請をしてみたらどうか」という法曹関係者の声がちらほら聞こえるので,これについての個人的見解を。
貸与制のもとで,司法修習生が生活保護申請をするということには,2つの意味合いがあると思います。
①1つは,実際に生活保護を受給すること。
②もう1つは,貸与制に対する抗議活動としての意味。
司法修習生は生活保護を受給できるか?
補足性の原理との関係
稼働能力の有無
ただ,前者【①】については,補足性の原理(生活保護法4条1項)との関係で,修習生の稼働能力の有無がまず問われるでしょう。
「兼業禁止があるから稼働能力がない」という方もいらっしゃいますが,兼業禁止は修習に行くからこそ生じるのであって,修習に行かないという選択肢がある以上,修習生一般に稼働能力がないという主張は認められないように思えます。
稼働能力活用の意思
もう1つ,稼働能力活用の意思についても問題があります。
修習に行かなければ職を得て働くことができるにもかかわらず,あえてこれを放棄して(無給の)修習に行くということは,「法曹という特定の職業に固執して,稼働能力を活用する意思がない」とされる可能性が大きいように思えます。
これに対して,「修習は実質的に義務である」という反論もあります。
ただ,「実質的に義務である」ということは具体的にどういうことなのでしょうか。
「修習に行かなければ法曹になれないのだから,実質的に義務である」ということでしょうか。
もちろん,実態としては,修習に行かないで法曹になることはほぼできませんので,法曹になることを前提とする限り,修習が実質的に義務であることは間違いありません。
それにもかかわらず,貸与制の下で修習専念義務を課す現行制度はおかしいとは思います。
ただ,それはあくまで給費制維持(あるいは,専念義務の廃止や,修習制度自体廃止)の主張の根拠であって,生活保護受給の根拠になるかというと,法曹にならないという選択肢も存在する以上,個人的には疑問です。
貸与制に対する抗議活動としての生活保護申請
次に,(受給の可否はともかく)貸与制に対する抗議活動として,生活保護申請をするということ【②】について。
これについては,各修習生の判断としかいいようがないですが,生活保護申請のために貸与を受けず,かつ,生活保護も受給できなかったとき,その修習生はどうするのだろうと考えると,これにもすごく疑問が残ります。
こう考えると,この問題はやはり給費制の維持の問題であって,あくまで給費制の維持を主張するか,あるいは,専念義務の廃止や修習制度自体の廃止を主張するべきなのだろうと思っています。