弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

医師・歯科医師の犯罪と行政処分~医道審議会・その2~

ブログ「総合内科専門医の言いたい放題」からのご指摘

総合内科専門医の言いたい放題」というブログで,医道審議会に関する以前の記事を取り上げていただきました。

上記のブログの中でご指摘いただいた点について,以前の記事より詳しく解説してみたいと思います。

法務省から厚生労働省への情報提供

まず,以前の記事のうち,

①医師や歯科医師の方が罰金以上の刑に処されると,その情報が法務省から厚生労働省に提供されます。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/02/h0224-1.html

については、

①はあっています.

 とのコメントをいただいていますが,念のため、少しだけ補足しますと,
医師の方が罰金以上の刑に処された場合,

(1) 公判請求され(=正式裁判によって)罰金以上の刑に処された場合については,全件,検察庁から厚生労働省に情報提供がされます。

(2) 略式手続によって罰金刑に処された場合については,
 ア 原則として検察庁から厚生労働省に情報提供がされます。
 イ ただし,軽微な事件については情報提供がされません。

厚生労働省への情報提供がなされる事案の基準

次に,

厚生労働省が処分対象者の医師・歯科医師に対し,①で情報提供を受けた事案について,事案報告書の提出を求めます。

について,上記のブログの中で

②はビミョー.
例えばスピード違反の罰金刑がすべて医道審議会にかかっていたら
数が多すぎて,審査できないですよね?
医道審議会にかけるべきかどうかは,基準があります.
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000024nfz-att/2r98520000024nvn.pd

 とのコメントをいただきました。

医道審議会の対象になるのは,「罰金刑」(=刑事罰)に処せられた場合

このご指摘についてですが,まず,すべてのスピード違反が罰金刑(=刑事罰)の対象となるわけではありません。

反則金(=行政罰)は,厚生労働省への情報提供の対象外

一般道路の場合,時速30km未満の速度超過については,反則金(=行政罰)を納付すれば,罰金刑(=刑事罰)を受けることはありません(道路交通法128条2項,125条1項)。

厚生労働大臣による行政処分の対象となる医師・歯科医師は、「罰金以上の刑に処せられた者」(医師法4条3号、歯科医師法4条3号)ですから、時速30km未満の速度超過で反則金(=行政罰)を納付してもこれには該当せず、医道審議会にはかかりません。

「罰金刑」(=刑事罰)に処せられた場合はすべて厚生労働省に情報提供される?

ただ,時速30km以上の速度超過で略式手続により罰金刑に処された場合に,
上記(2)アにより検察庁から厚生労働省に情報提供がされ,その結果医道審議会にかけられるのか,
それとも上記(2)イの「軽微な事件」であるとして,検察庁から厚生労働省への情報提供もされず,医道審議会にもかけられないことになるのかはわかりません。

平成16年から24年までの全処分例を見ても,時速30km以上の速度超過について、略式手続による罰金のみで行政処分を受けた例はありません。
ただ、この場合、そもそも医道審議会にかかっていないのか、それとも医道審議会にかかったが厳重注意(処分なし)で終わったのかは判断できないのです。
医道審議会にかかっても、厳重注意で終わった事案については公表されないからです。)

他方で、時速30km以上の速度超過で略式手続きによる罰金を複数回受け、その後に交通事故や酒気帯び運転、無免許運転等で懲役刑の言い渡しを受けた場合には、略式手続きによる複数回の罰金刑もすべて医道審議会の処分原因事実に掲げられています。
しかし,これについても、上記(2)アにより検察庁から厚生労働省に情報提供がされていたのか、懲役刑の言い渡しを受けた際の刑事事件記録等から発覚したのかは判断できません。

もっとも、酒気帯び運転等については、略式手続による罰金刑のみでも医道審議会にかけられた事例が複数存在しますので、速度超過についても、上記(2)アにより検察庁から厚生労働省に情報提供がされている可能性が高い、と考えておいた方がよさそうです。

処分を決めるのは医道審議会か,厚生労働大臣

最後に、

③処分対象者からの事案報告を踏まえ,厚生労働省は,処分区分(免許取消を予定するか否か)を決定します。

についても、

③も厳密には違います.
処分は医道審議会が決めるわけなので,厚生労働省が決めるわけではありません.

とのコメントをいただきました。

行政処分を行うのは厚生労働大臣

これについては誤解があるようですが,医師法歯科医師法も同様の規定)で,

第七条  医師が、第三条に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消す。
2  医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
 一  戒告
 二  三年以内の医業の停止
 三  免許の取消し
3  (略)
4  厚生労働大臣は、前三項に規定する処分をなすに当つては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。

と定められていることから明らかなように,処分を行うのは厚生労働大臣であって,医道審議会ではありません。

医道審議会の位置づけ

医道審議会というのは,医師法7条4項にあるとおり,あくまで,厚生労働大臣が処分を行うにあたって意見を聴くもの(諮問機関)であって,医道審議会が処分を決定する権原があるわけではないのです。
(もっとも,厚生労働大臣は原則として医道審議会の答申どおりの処分をするでしょうから,実質的には医道審議会が処分を決めているのとほとんど変わりません。しかし,医道審議会の答申に法的拘束力があるわけではありませんので,厚生労働大臣は,医道審議会の答申と異なる処分をすることも可能です。)

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