弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

婚約の認定(婚約破棄と慰謝料請求・その1)

婚約の不当破棄による損害賠償請求

婚約が正当な理由なく破棄された場合,破棄された側は,相手方に対して損害賠償を請求することができます。

損害賠償請求のためには,婚約の成立を証明する必要がある

ただ,「婚約が正当な理由なく破棄された」というためには,その前提として,婚約が成立していたと認められる必要がありますし,婚約が成立していたことは,損害賠償を請求する側で証明しなければなりません。

婚約の成立をどう立証するか

この婚約成立の立証については,「結納をしていなければ婚約が成立したとは認められない」とか,「婚約指輪を贈っていなければ婚約が成立したとは認められない」といった解説もあるようですが,結納や婚約指輪がなければ婚約の成立が絶対に認められない,というわけではありません。

大判昭和6年2月20日

古い判例ですが,大判昭和6年2月20日は,

『婚姻の予約なるものは結納の取交せその他慣習上の儀式を挙げ因て以て男女間に将来婚姻を為さんことを約したる場合に限定せらるべきものに非ずして男女が誠心誠意を以て将来に夫婦たるべき予期の下に此の契約を為し全然此の契約なき自由なる男女と一種の身分上の差異を生ずるに至りたるときは尚婚姻の予約ありと為すに妨げなきものとす…』

と判示しています。

この判決の判示していることは,要するに「婚姻予約というのは,結納の取交しその他の慣習上の儀式によって将来の婚姻を約した場合に限られるものではなく,男女が誠心誠意をもって将来夫婦となるべき予期のもとに将来婚姻することを約束し,これをしていない男女と身分上の差異を生じるに至っていれば,婚姻予約が成立したと認めてよい。」ということです。

東京地判平成24年1月27日

また,最近の裁判例ですと,東京地判平成24年1月27日も,

『…原告と被告Bは,平成17年2月頃から交際を始め,同棲を始めたこと,被告は一度目の妊娠をしたが中絶し,平成20年6月に再び妊娠したこと,原告は今度は子を産むこととし,先の妊娠中絶の際の約束どおり被告Bとの間で結婚することを約束したが,入籍は先にすることを合意したこと,原告と被告Bはその後も同居生活を続け,生活費の大半を原告が稼いでいたこと,原告は平成20年8月26日に交付を受けた母子健康手帳の「母(妊婦)」欄に「E」と記載したこと,原告は平成21年2月23日被告Bとの子であるDを出産したことは前記1認定のとおりである。これらの事実を総合すると,原告と被告Bとの間に平成20年6月頃婚姻予約が成立したものと認められる。』

と判示して,結納や婚約指輪の有無にかかわらず婚約の成立を認めています。

外形的な事実から,婚約の成立を推測していく

上記の大判昭和6年2月20日の判示する「男女が誠心誠意をもって将来夫婦となるべき予期のもとに将来婚姻することを約束し(た)」という事実の存在については,これを直接立証する客観的証拠はほぼ皆無でしょうから,その他の外形的な事実からその有無を推測していかざるを得ません。

結納や婚約指輪は,婚約の成立を推測させる外形的な事情の1つ

もちろん,結納や婚約指輪が存在すれば,「男女が誠心誠意をもって将来夫婦となるべき予期のもとに将来婚姻することを約束し(た)」ことは強く推測されますが,これらの存在はあくまで「男女が誠心誠意をもって将来夫婦となるべき予期のもとに将来婚姻することを約束し(た)」ことを推測させる事情の1つに過ぎません。

結納や婚約指輪がない場合は…

したがって,これらが存在しなくても,その他に,「男女が誠心誠意をもって将来夫婦となるべき予期のもとに将来婚姻することを約束し(た)」ことを推測させる事情が存在すれば,婚約の成立は認められ得る,ということになります。

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