元後見人が相続人を調査する際に,(閉鎖)後見登記事項証明書は必要?
非常に長いタイトルになってしまいました。
成年被後見人が亡くなった後,元成年後見人は,相続人を調査して,相続人に相続財産を引き渡すことになります。
相続人を調査するためには,相続人の戸籍を取得する必要がありますが,この戸籍を取得する際,市区町村によっては,亡くなった成年被後見人の(閉鎖)後見登記事項証明書を提出するよう求められることがあります。
しかし,以下のとおり,この取扱いは間違いで,(閉鎖)後見登記事項証明書の提出は原則として不要のはずです。
請求者の本人確認(戸籍法10条の3第1項)と権限確認(同2項)について
元成年後見人が戸籍を請求する場合,元成年後見人は,運転免許証等の身分証明書を提示しなければなりません(戸籍法10条の3第1項)。
ただ,ここで提示しなければならないのは,あくまで元成年後見人を特定するための身分証明書等(元成年後見人の運転免許証等)であって,(閉鎖)後見登記事項証明書を提出する必要はありません。
そして,成年被後見人の死亡後は,元成年後見人は,成年被後見人の法定代理人として戸籍を取得するわけではありませんから,法定代理権を証明する書類(戸籍法10条の3第2項)として,(閉鎖)後見登記事項証明書を提出する必要もありません。
元成年後見人としては,戸籍の交付請求書に「戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由」(戸籍法10条の2第1項3号)を記載して提出し,自身の身分証明書(運転免許証等)を提示すれば足りることになります。
この場合,「戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合 戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由」としては,「請求者が成年後見人であった成年被後見人亡〇〇(××年××月××日死亡)の相続人調査(相続財産引渡しのため)」等と記載すればよいでしょう。
市区町村からの説明要求(戸籍法10条の4)について
ところが,市区町村によっては「後見人であったことの証明のために必要である。」といった理由で,(閉鎖)後見登記事項証明書の提出を求められることがあります。
戸籍法10条の4は,
市町村長は、第十条の二第一項から第五項までの請求がされた場合において、これらの規定により請求者が明らかにしなければならない事項が明らかにされていないと認めるときは、当該請求者に対し、必要な説明を求めることができる。
と定めており,この規定に基づいて,必要な説明(この説明には,資料の提出も含まれる)を求めている,というのが市区町村が提出を求める根拠のようです。
しかし,この規定により説明を求めることができるのは,「請求者が明らかにしなければならない事項が明らかにされていないと認めるとき」です。
そして,この判断については,法務省の通達により,
原則として交付請求書に記載された内容自体から各交付要件の存否を認定し, 明らかにすべき事項が明らかにされていないと認めるときに限り, 請求者に対して必要な説明を求めるものとする。
「明らかにすべき事項が明らかにされていないと認めるとき」とは, 交付請求書に記載された内容が,①不十分である場合,②矛盾がある場合,③職務上知り得た他の事情等に照らし内容が真実でない強い疑いがある場合等である。
とされています。
したがって,戸籍の交付請求書に「請求者が成年後見人であった成年被後見人亡〇〇(××年××月××日死亡)の相続人調査(相続財産引渡しのため)」と記載されている限り,請求者が明らかにしなければならない事項はすべて明らかにされていますから,戸籍法10条の4の規定に基づいて説明を求めることはできません。
そうすると,市区町村において,元成年後見人に対し(閉鎖)後見登記事項証明書の提出を求める根拠は何もない,ということになります。