弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

厚生年金未加入による損害額の算定(厚生年金未加入に対する対応策・その6)

届出義務の懈怠による損害額の算定

事業主と被保険者の間で義務違反が認められれば,事業主が届出を行わなかったことによる損害賠償が認められることになりますが,その場合の損害をどのように算定するかについては問題があります。

損害とは…

損害とは,大きく以下の3つに分けることができます。

①積極損害(事業主の義務違反によって支出を余儀なくされたもの)
②消極損害(事業主の義務違反によって,本来得られるはずなのに得られなくなった利益)
③精神的損害(慰謝料)

積極損害

このうち,①の積極損害については,厚生年金に加入できなかった間に支出した国民年金保険料等が考えられるでしょう。

消極損害(逸失利益

問題は②の消極損害(逸失利益)です。

既に年金の受給を開始している場合

②について,被保険者が既に年金の受給を開始している場合であれば,損害(=減少した年金額)の算定は比較的容易です。

年金の受給を開始していない・受給資格期間を満たしていない場合

ところが,被保険者がまだ年金の受給を開始していなかったり,年金の受給に必要な資格期間を満たしていないような場合には,そもそも将来年金を受給できるのかどうかさえ確定していないため,未加入によってどれほどの損害が発生したのか(=どれだけ受給できる年金額が減ったのか)を算定することは極めて困難です。

判例も,年金受給を開始している場合や,受給資格期間を満たしている場合には損害賠償を認める傾向にありますが,受給資格期間を満たしていない場合については,損害が発生していない,あるいは損害額が明らかでないとして,損害賠償請求を認めないものが存在します。

逸失利益が認められない場合でも…

ただ,②の逸失利益が認められないような場合であっても,年金制度が強制加入とされていることの趣旨に鑑みれば,保険料徴収権の時効消滅により将来の年金受給権に影響が及ぶ可能性がある以上,③の慰謝料による救済を広く認めることが検討されて良いのではないでしょうか。

被保険者が負担すべきであった保険料額の控除・過失相殺

豊國工業事件の判決の考え方によれば,この①~③の合計額につき,
④本来,被保険者が負担すべきであった保険料額を①②から控除し,
⑤被保険者に落ち度があれば過失相殺が行われ,
最終的な損害賠償額が確定することになります。
(なお,私見としては,④の控除を認めることには疑問があります。)

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