弁護士 木村康之のブログ

世田谷区・経堂の弁護士です。身近な法律問題についての情報を発信していきます。

処分の軽減についての裁判例(運転免許取消・免許停止処分の軽減・その5)

「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」の認定

「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」の認定に関する裁判例

前回までの記事でご紹介したとおり,「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情があるとき」であると認められれば,処分が軽減される可能性があるわけですが,この「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」の認定について判示した裁判例(大阪地判平成23年2月24日)をご紹介します。

『1(1)運転免許の取消し及び免許の効力の停止(以下「免許の取消し等」という。)の処分は、道路交通上危険のある運転者を一定期間道路交通の場から排除して、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図ること(法1条参照)を目的として行われるものであり、法施行令の採用する基準(いわゆる点数制度)は、このような免許の取消し等の処分が相当であると認められる程度に道路交通上の危険性が高いと評価できる運転者を類型的に規定し、その危険性の度合いに応じて当該処分を行うべきことを定めたものということができる。そして、法103条1項5号及び7項はそのような「政令で定める基準」に従って処分を行う権限を公安委員会に付与しているのであるから、公安委員会が上記の権限を行使して免許の取消し等の処分を行うか否か、また、運転免許の取消しの処分を行う場合に欠格期間をどのように定めるかの判断は、原則として法施行令の基準に従って行うべきである。
(2)もっとも、違反行為の態様、違反行為を行うに至る経緯・動機、違反者の違反の認識の有無・程度等の個別具体的な事情によっては、法施行令の基準どおりの処分を行うことが被処分者の道路交通上の危険性の度合いに照らして重きに失すると認められる場合もあり得るところであるから、このような場合に法施行令の基準に従った処分の内容を軽減することにしても法103条1項5号及び7項に違反する措置とはいえず、この限度において公安委員会には裁量権が認められていると解するのが相当である。処分行政庁が平成21年6月5日付けで定めた法103条1項に係る処分基準(以下「本件処分基準」という。乙5)において、法施行令の基準に従えば運転免許の取消しを行うべき場合に該当する者について、「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情があるとき」は、一定の基準に従い処分を軽減することができるものとし、具体的には欠格期間を1年間とする運転免許の取消処分については180日の運転免許の効力停止処分に処分を軽減することができる旨定めているのも、上記趣旨に沿うものである。
そして、行政手続法12条1項の趣旨に照らすと、処分行政庁が本件処分基準を恣意的に運用することは許されないのであって、処分対象者に上記特段の事情が存在するにもかかわらず、処分行政庁がこれを考慮せず、処分を軽減しなかった場合には、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により当該処分は違法になるというべきである。
他方、上記特段の事情の存否は、違反行為に係る諸般の事情を総合的に勘案して決すべきものであるから、その判断は道路交通行政に通じた処分行政庁の合理的な裁量に委ねられているものと解される。また、本件処分基準は法及び法施行令の定めの特則として位置づけられるべきものであり、処分が軽減されるのは飽くまでも例外的な救済措置と解されるから、上記特段の事情の認定は厳格に行うべきものということができる。』

「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」は厳格に認定される

この裁判例は,処分の軽減はあくまで例外であることから,「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」は厳格に認定されるべきであるとしています。

そのため,処分の軽減を得るためには,公安委員会による意見の聴取の中で,「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」があることをきちんと主張・立証していく必要があるでしょう。

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